暗視野顕微鏡のメリット,デメリット

暗視野顕微鏡の最大のメリットは,
 非常に小さいものが観察可能
であり,さらに,
 なんら前処理(蛍光標識などの)がいらない
と言うものです.
つまり,生きたまま,本来の姿を観察できる,というものなのです.

では,実際の物体と暗視野で観察できる物体とはどのような違いがあるのでしょう?

この図で,
 実線が実際の物体
 破線,および黄色い範囲が暗視野で観察可能な像

です.
つまり,
 長さの情報
 形状の情報

はある程度正確に見積もることができます.
長さが何ミクロン?形状はまっすぐ?波打っている?等々.

しかし,
 太さの情報
に関しては,非常に困難です.
暗視野で観察できている像はあくまで,
 散乱光
なので,いわば,ハレーション,をおこしている像に過ぎず,実態とは違うものだからです.
もちろん,
 太くなるほど散乱強度は増す
ので,
 明るいほど太い
ことになります.
しかし,散乱強度は,
 物体の直径,形状,屈折率
 入射光の角度,波長

等々,様々な要因によりますので,散乱光から,直接物体の直径を見積もる,というのは結構大変な作業です.

また,もう一つのデメリットとして,
 短い物体は,もはや輝点としてしか認識できない
というものがあります.
これは,後で述べる,ゴミと区別できなくなるのです.

暗視野照明は,基本的に
 物体の散乱
の様子を見ているだけなので,対象物以外の散乱物があると,区別しにくくなったり,コントラストが落ちます.
対象物以外,とは,
 溶液中のゴミ
 カバーガラス上のゴミ
 カバーガラスの傷

などです.
ですので,使用するカバーガラス,スライドガラスは丁寧に扱わなければなりません.
ごしごしキムワイプなどで,磨いたりすると,それだけでスクラッチ傷が入ってしまいます.
また,空気中で乾燥させたり,放置すると,それだけでゴミが付着してしまいますので,たとえば,
 エタノールなどで洗浄
 純水に置換して洗浄
 純水中で保存
 使用直前に取り出して,エアーを吹き付けて乾燥

などして使うことが必要となります.

また,いかに小さいものを観察するか,と言うことに関しては,
 S/N
を向上させなくてはなりません.
ここで,N,はノイズのことで,先に述べたゴミなどを除去して対象物だけを散乱させる努力が必要です.
S,は対象物の散乱光のことを指し,この強度を上げる努力が必要となります.
そのためには,
 照明光を強くする
 散乱光を効率よく対物レンズに導く

と言うことになります.
照明光を強くするためには,使用する光源をハロゲン光から水銀光,キセノン光,などに変換すると光強度を稼げます.
よりよく,対物レンズに導くためには,高いN.A.のレンズを使うとたくさんの散乱光を取得することができます.
しかし,先に述べたように,
 暗視野コンデンサのN.A. > 対物レンズのN.A.
は守らなくてはなりませんので,高いN.A.の暗視野コンデンサを使用する必要があります.
一般的に,高いN.A.の暗視野コンデンサ,は油浸型のものです.
しかし,かなりの量のイマージョンオイルを使いますので,後片付けなどで結構面倒くさいですね...

このように,暗視野照明は,手軽にでき,蛍光などと共存でき,試料に何ら処理を加えなくてよいので,非常に便利な照明系です.
ぜひ,皆さん使ってみてください.

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